日 時 平成19年10月20日(土)・21日(日)
天 候 両日とも晴れ
稜線は風が強く、気温低い(朝の気温 -10度)
人 数 単独
行 程 三股登山口から蝶ヶ岳往復
<メモ>
 ・今年の紅葉は例年よりも10日間ほどの遅れ
 ・三股登山口あたりは少し黄葉が見られた
 ・初冠雪は10月19日と山行の前日であった
 ・蝶沢より上部に積雪があり、稜線手前では15cm〜20cm程度の積雪
 ・稜線は強い風に見舞われ、凍結あり
 ・常念岳への縦走はアイゼンが必要と思う


駐車場から蝶ヶ岳稜線を望む まめうち平
北アルプスにしばしのお別れを告げに蝶ヶ岳に登ることにした。
昨年の土砂崩れで通行止めとなっていた三股登山口への林道が、9月末にようやく開通したため、格段にアクセスがよくなった。
途中の林道から初冠雪を迎えた蝶ヶ岳の稜線が見え始め、気持ちが高揚してくる。
登山口周辺はまだ紅葉が始まっておらず、山の中腹にポツリポツリと赤く染まった樹が毛玉のように見えた。                            唐松の並木道 →
駐車場から林道を10分ほど歩くと、小さな登山指導所の小屋のある三股登山口に着く。沢沿いに進むと、常念岳と蝶ヶ岳の分岐となり、まさに三股だ。蝶ヶ岳から常念岳への縦走も考えたが、雪化粧をした峰々を見て、とうにそんな気も失せた。
本沢を渡り最後の水場力水を越えると、程よい傾斜の登山道となり、樹木の間から前常念岳と常念岳の頭が見え隠れする。
唐松の並木道をハイキング気分で歩き、蝶沢沿いの尾根に取り付くと再び傾斜はきつくなり、ちょうどウォーミングアップを終えて調子が出てきたところで、まめうち平に到着した。
このあたりから、苔むしたシラビソの森が広がり、冷たい風が森の香りを運んでくる。 深呼吸を繰返すと、体が浄化されていくみたいだ。
← 登山道から常念岳と前常念岳
蝶沢(涸れている)の上部から、うっすらと雪が付きだし、いよいよ蝶ヶ岳の南斜面に取り付いた証拠に登山道の傾斜もきつくなる。
空を見上げると、木々の枝についた霧氷が溶け出し、キラキラと輝いている。
雪は思いのほか多く、上部の登山道はすっかり雪に覆われていた。
寒さも厳しくなり、さすがに少し心細くなってきた。
大滝山との分岐にでると、もう山頂はすぐそこ。ようやく、男性の単独登山者に出くわした。
雪をかぶったハイマツのトンネルを抜けると、西側からの強烈な風に煽られ、体がよろめいた。槍・穂の大展望が望めるはずだが、それどころではない。少しでも気を抜けば、吹っ飛んで行きそうな強風だ。
ヒュッテまで100m足らずの距離であるが、みるみるうちに体温が奪われ、凍えるような寒さとなる。
ヒュッテに飛び込むと、意外にも居間にはたくさんの登山者が休んでいた。
宿帳にサインをしようとペンを握るのだが、なんと全く字が書けない。薄手の手袋をはめており指先が冷えている感覚はあまりないのに、一本の線すら引けないのだ。
こんな経験は初めてだった。小屋の方に記入をして頂き、寝床に案内してもらう。
濡れた衣服をすべて着替え、暖かいコーヒーを沸かして飲んだ。
蝶ヶ岳はまるで槍・穂高連峰の展望台のような山だ
常念まで縦走しようと計画していた登山者も皆、この強風に足止めをくらってしまったのだ。 どうやら昨晩は荒れに荒れたようで、一晩で冬の装いとなったらしい。単独登山者が多いようで、互いに自分の山行話に華が咲いている。
私はなんだかひどく疲れていて、自分の寝床に戻ると、暗くなるまでまでずっと眠ってしまった。 
夜、少しだけ外に出てみると、相変らず激しい風だったが、眼下に見える穂高町の灯りがチカチカと光り急峻な山であることを感じさせた。 明日の天気予報は晴天。
朝焼けを楽しみに、再び毛布に潜り込む。
夜半は益々冷え込み、何度も目を覚ました。 どうやら明け方は−10度まで気温が下がったようだ。
御来光を迎え、パァッと赤く染まる山稜に胸を打たれる
5時半頃に起きると、すでに大半の登山者はカメラを手に自分のベストポジションを求めて外へ出て行った。
雪化粧をまとった槍・穂高の山稜は、神々しいまでの美しさで、モルゲンロートに染まった光景に思わず胸が熱くなる。
南には品格漂う乗鞍岳と御嶽山が、北にはピラミッドの常念岳、脈々と続く大天井の稜線、そして眩しい御来光を望めば、八ヶ岳、富士山、南アルプスがまるで影絵のようなシルエットを見せている。
あっという間に陽が登り、魔法のように空が深い青色に変わっていくと、雪焼けしそうなくらいの照り返しだ。
根性があれば、良い写真がたくさん撮れるだろうが、ヘタレな私はオーバー手袋をしたままシャッターを切り、後は自分の胸に焼き付けて小屋へと戻った。
蝶ヶ岳からは、三股、徳沢、横尾へ下ることが出来る。皆、情報交換をしながら、方々へ散っていった。
私はゆっくり朝食をとると、下山前に展望指示盤のある山頂(?)へ行ってみた。槍ケ岳の肩の小屋や奥穂高岳山荘が時折キラリと光るのが見える。山小屋も冬支度に忙しい時期だろう。
私は今年の北アルプス山行を振り返り、しばしのお別れを告げて山頂を後にした。
朝方の登山路はまだ凍結しており、下山には少し時間がかかった。どうやら、昨晩も雪が降ったようで、蝶沢周辺もうっすら雪がついている。往路で気に入ったシラビソの森で、小鳥のさえずりを聞きながら一息つく。森の幻想的な風景や香りは、まさに”癒し”だ。
エネルギーをたっぷり蓄えて、登山口に帰ってくる。
何だかんだ言っても、一番充実感を感じるのはこの時だ。
                              (報告者:A)
山頂から望む常念岳と大天井 美しい裾野を広げる乗鞍岳と御岳山