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日時 平成16年4月7日(水〉 オフシーズンの上高地に一度は行ってみたいと思っていた。いつも賑やかな河童橋や大正池も、この時期は小鳥のさえずりと梓川のせせらぎだけの静寂な世界。
スノーシューやXCスキーで歩きまわるもよし、森の中でぼんやり過ごすもよし、上高地の別の顔を覗いてみませんか。

             ※今回はジデカメを忘れてしまい、携帯用カメラで撮影しています。
天候 くもり 気温13℃(中の湯)
人数 二人
j行程 バス停中の湯〜大正池〜河童橋〜中の湯
所要時間約5時間(途中休憩含む)

釜トンネル中間にある素彫りの内壁部分
スキーシーズンも終わり、山開きにはちょっと早いこの季節。以前から行きたいと思っていた雪の上高地へ行ってみることにした。
中の湯売店前はトンネル工事の関係者や工事車両で騒然としている。従来のトンネル入口の右側に、来年開通予定の新釜トンネルがボッカリと口をあけている。このトンネルが出来れば相互通行が可能になり、トンネル渋滞も少しは解消されるであろう。
トンネル内は思ったより明るく、ライトを照らす必要はない。トンネルでは異例の傾斜というだけに、勾配がきつく凍結の場合はアイゼンが必須であろう。トンネル中間あたりに、おそらく意図的に残したと思われる、素彫りの内壁が現れる。約70年前に多くの工夫達によって掘られたのかと思うと、感慨深いものがある。
トンネルを抜けると焼岳の姿がまぶしい

トンネルの後半はY字になっていて、左側は川沿いの旧トンネル、右側は昨年竣工した新釜トンネル上部で、登山者は右側のトンネルを走行する。工事車両の排気ガスが息苦しい。
トンネルを抜けると光を反射した雪面がまぶしい。葉の付いていない木立から焼岳がどっしりと姿をみせ、気持が一気に高揚する。
生暖かい風に小さな虫がたくさん飛んで、もうすっかり春という感じ。早々にジャケットを脱ぐ。大正池手前のカーブを曲がると、穂高連峰のお目見えだ。残念ながら3000メートルあたりに雲がかかり、稜線を望むことができない。それでも上高地のこの光景は、さまざまな想い出があふれ出し、懐かしさや、それでいて今だ憧れのような想いが胸をしめつける。
大正池の先も林道はしっかりと除雪され、周りのシラビソの香りを楽しみながらハイキングのような気分になる。このまま河童橋まで行くのも良いが、早く梓川の清流が見たくて、帝国ホテル横の道を田代橋に向かって歩くことにする。梓川は相変わらずの透明度だが、時期的なことであろう、水量が少なかった。田代橋を二つ渡り、梓川の西岸沿いを歩くと、霞沢の山並みと木立が見事で、度々足を止めて魅入ってしまう。
梓川西岸から霞沢を眺める。この自然を創ったのは天才庭師だ!
梓川沿いには赤い枝のケショウヤナギが
ウエストン碑の前を通り、除雪された砂利道を進むと岳沢登山口前に出る、除雪はここまでだ。ここからはスノーシューを履いて雪道を河童橋に向かって戻るように歩く。雪は程よくしまり、登山靴でもかろうじて沈まずに歩くことが出来る。いつもは人だかりの河童橋も今日は独り占め。つがいのカモが頭上を飛び、名の知れぬ小鳥達がどこかでさえずっている。自然は静かな方が良い、といつも言っている私だが、この河童橋は観光客や登山者がいないとどこか物悲しさを覚えてしまうから不思議なものだ。
田代池へ向かう林間コース、歩くことも雪遊び
河童橋からは梓川の東岸に沿って雪道を歩く。今回はストックを持ってこなかったので、落ちている枝を拾ってストック代わりにした。ダブルストックだと雪道はとても歩きやすい。川沿いのユキヤナギがすでにネコジャラシのような冬芽をつけている。
田代橋まで戻ってくると、ここから田代池に向かって夏道でいう”林間コース”をたどる。もちろん道は見えていないので、かすかな踏跡をたよりに南下していくのだが、まわりに目印などは無く、少々不安な道。ただ、数百メートルおきに案内板などの人工物が現れるので、道が間違っていないことに安堵する。雪の上をただ歩いているだけなのに、心が躍るのは何故だろう。
ひっそりと佇む田代池、この後、つがいのカモがやってきた

湿地帯のせいだろうか、田代池の近くまでくると、生暖かい風がモワ〜ッとまとわり付いてくる。開けた田代湿原からは穂高連峰が再び姿を見せ、霞沢をバックに美しい田代池が佇んでいる。新緑の輝くような田代湿原も素晴らしいが、ひっそりと静かなこの時期も、心洗われるような厳粛な雰囲気が良い。細かい砂地の水辺で、一休み。思わず自分のしゃべる声までもヒソヒソ話になってしまうのがおかしい。XCスキーを履いたトレッカーが静かに向こう岸の雪面に姿を見せる。こんな場所でキャンプが出来ればいいのに・・・と想像するだけでもワクワクしてくる。今回はカップ麺で簡単に食事をすませ、暖かい紅茶にウイスキーを注いでもう一服(タバコは吸いません)。くつろいでいると時間が経つのを忘れてしまう。
そろそろ出発しようかと腰を上げると、パラパラと雨が降り出した。森の中を進み左手に車道が確認できるようになると視界がパッと開け大正池が現れる。
春雨の中、大正池のシンボルでもある枯木が寂寥感を漂わせ、独特の雰囲気をかもしだしている。
もとのに車道に戻り、往路をたどって中の湯へ。車へ戻る頃には本格的な雨になっていたが、不思議と不快感はない。四季折々、雨でも雪でも楽しめるのが自然の素晴らしさだと、この時期の上高地を訪れて改めて感じる。
何にしろ、私にとって上高地はいつまでも憧憬の地であるのだ。(報告者:A)

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